黄金の風だより

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『セント・オブ・ウーマン――夢の香り』を見る:正しき道は、険しき道。されど素敵な友と一緒なら…

記事にスターをつけてくださる皆さん、本当にありがとうございます。僕も皆さんのブログにお邪魔して、読ませていただきます!!

 

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今回、皆さんにおすすめしたい映画が『セント・オブ・ウーマン――夢の香り』(1992年)です。「あなたの最も好きな映画は?」と問われた場合、真っ先に僕の頭に浮かんでくるのがこの映画です。アカデミー賞では、盲目の退役軍人を圧倒的な演技力と存在感で演じきったアル・パチーノが主演男優賞を受賞し、作品賞、監督賞、脚色賞にノミネートされました。

 

好きな理由はいくつかあるのですが、稚拙な表現でかまわなければ、魂がすーっと洗われるような気持ちになるのです。この映画の1つ1つのシーンや音楽、役者の表情などを見ていても、何というかノスタルジックな気分になります。

 

さて、まず内容について簡単に紹介しますね。

この物語の主人公は2人です。1人は、オレゴン州の田舎からマサチューセッツ州ボストンの名門ベアード高校にやってきたチャーリー・シムズ(クリス・オドネルという青年です。経済的には貧しくも優秀で誠実なチャーリーは、奨学金を得て名門校に通っています。もう一人は、盲目の退役軍人フランク・スレード中佐(アル・パチーノです。その軍人口調と気難しい性格は相対する人々を困らせますが、盲目故に鋭い感性やユーモアを持ち、心の奥底には優しさも兼ね備えた人物です。人生上の壁にぶつかった二人が偶然出会い、お互いに影響を与えながら成長する様を描いたドラマとなっています。

 

(以下がっつりとネタバレしながら内容を説明しているので、見たくない方はご注意を)

 

【起】

物語は、感謝祭の休日期間におけるアルバイトに、チャーリーが応募するところから始まります。経済的に苦しいチャーリーは、休日期間に家族が出かけるため一人になる老人の世話をするアルバイトに応募します。その老人がフランクなのです。初対面から気難しいフランクに辟易するチャーリーですが、フランクの同居家族に頼まれ、アルバイトを引き受けることにしました。

しかし、アルバイトがいざ始まる前、学校で問題が起こります。それは、同級生の3人グループが校長先生の車にいたずらを仕掛けているところを見かけてしまうのです。そのときチャーリーは、ジョージという同級生と一緒でした。そのいたずらを目撃したことによって、チャーリーとジョージは校長先生に犯人を教えるよう迫られます。

しかしチャーリーは告げ口するのを嫌がります。そのグループとそれほど仲がいいというわけではないにもかかわらず、チャーリーは言おうとしません。ジョージはというと、そのグループと仲が良く、校長のことを嫌ってもいたので、もちろん告げ口はしません。そこで校長は、経済的に苦しいチャーリーに対して、犯人を言えば、ハーバード大学への奨学金付き推薦状を与えると持ち掛けます。そして感謝祭明けに全校生徒の前で審問会を開くから、休日の間によく考えるよう伝えます。

 

【承】

そうした悩みごとを抱えながら、フランクの世話へ向かうチャーリー。ところがフランクもまた困った人で、家族が出かけた後、突然「ニューヨークに行く」と言い出します。困りながらもチャーリーは、盲目のフランクに付き添うことになりました。

ニューヨークで何をするのかと尋ねられたフランクは、「ある計画を実行する」といいます。そしてその計画の仕上げは、「銃で自分の頭を打ちぬくことである」と告げました。まさかとは思いながらも、実際に銃と銃弾を目にしたチャーリーは、銃弾を預からせてほしいとフランクに告げ、何とか説得します。その説得に応じたフランクとチャーリーは、ニューヨークで感謝祭の休日を過ごします。

 

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そして計画を実行していくフランクとチャーリー。高級レストランで食事をしたり、フランクの兄を尋ねたり、ホテルでみかけた女性とタンゴを踊ったり(このタンゴのシーンが秀逸なのですが、実際にご覧になってほしいです)。その間に二人は次第に打ち解けていき、盲目ながらも鋭い視点から世の中(主に女性のことに興味津々ですが…)を見抜くフランクにチャーリーは尊敬の念や親近感を抱いていきます。またフランクも、誠実で頼れるチャーリーのことを気に入っていきます。

チャーリーはもちろん休日中も、休み明けの審問会のことで悩まされており、ジョージと連絡を取り合い、どう対応するか相談します。ジョージはチャーリーに対して、「エリート校では親や先生に告げ口せず、級友はかばい合うのが当然だ」といい、「知らぬ存ぜぬで通す」といいます。しかし電話の内容からチャーリーの悩みをすぐに読み取ったフランクは、「ジョージの父親は金持ちだろう。チャーリーを裏切って自分だけ助かろうとするぞ」と忠告します。そして、「お前も裏切って、ハーバードに行けばいい。そうしてエリートの仲間入りをすればいいではないか」といいます。しかし、チャーリーは告げ口をして友人(というほど親しくないのですが)を裏切ることを頑なに拒否します。

 

【転】

そしてニューヨークでの日々も終わりを迎えるころ、フランクはチャーリーに葉巻を買ってきてほしいと頼みます。部屋にフランクを残し買い物に行こうとするチャーリー。しかし、その様子から嫌な予感を感じ、フランクがいるホテルの部屋に戻ります。するとフランクは、隠し持っていた銃弾でまさに自殺しようとしていたのでした。必死になって止めるチャーリー。

それに対してフランクは、「生きてて何の意味がある?」と迫ります。盲目の自分には、本当に信頼できる家族や友人もおらず、「あるのは暗闇だけだ」といいます。そしてチャーリーには、「君のような誠実な青年が、(その誠実さゆえに)この先挫折するのをみたくない。君もきっといつかは、この国にごまんといる魂のない人間の一人になってしまうんだろう」と問い詰めます。ここまでジョージたちとの問題に対するチャーリーの姿勢を見ていて、評価しつつも「そんなできた人間がいるか。もっとうまく生きていかないと損するぞ」と言いたげだったフランクは、チャーリーに対して厳しい口調で迫ります。

それに対して、ただ銃を手放すよう伝えるチャーリー。やっとの思いで説得に応じたフランクはチャーリーに「これからどうやって生きていけばいい?」と尋ねます。するとチャーリーはこう伝えます。「タンゴと同じように、足が絡まっても、踊り続ければいい」と。この言葉は、数日前にフランクが一緒に踊った女性に伝えた言葉でした。

 

【結】

 

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さて、休日も終わり、審問会に臨むチャーリー。金持ちで影響力のあるOBの父が同席するジョージとは対照的に、一人で壇上に上がったチャーリーでしたが、審問会開催直前に、フランクが親の代わりに駆けつけます。そして審問会では、取引を持ち掛けた校長や友を裏切り親にすがったジョージを非難しつつ、チャーリーをかばいます。そしてチャーリーのような誠実さと高潔さを持った青年こそが、これからの社会のリーダーにふさわしいという名演説を行い、見事チャーリーはおとがめなし、ということになります(当然ですが)。

こうして、お互いの抱える問題を乗り越えた二人は、再会を約束して別れます。チャーリーが見送る先には、なんとか同居家族との関係性をやり直そうと奮闘するフランクの姿が垣間見えたところで、物語は終わります。

 

 

さて、長かったですがストーリーは以上のような形です。見どころはたくさんちりばめられているのですが、やはりラストの演説は圧巻ですね。

軍人口調で威厳がありつつも、チャーリーという年の離れた友人に対する尊敬と愛に満ち溢れたスピーチになっています。そこで印象的だったフランクの言葉は、以下のようなものです。

「私はこれまで人生の岐路にいくつも立ってきた。そのとき私は、例外なく正しい道がわかっていたが、選ばなかった。なぜか?正しい道は険しい道だからだ」と。「チャーリーの今回の対応が正しかったかどうかはさておき、彼は自分のために友を裏切るようなことはしなかった。それこそが、本来人間が持つべき高潔さというものではないか。前途ある彼を、愛情をもって支えてあげてほしい」と審問会に立ち会う教員たちに伝えました。

 

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「正しい道は、険しい道」というのは、まさしくその通りですよね。20代の僕でさえ、よくわかります。もちろん、生きていく中ではちょっと怠けたかったり、「正しいこと」を追い求めることがつらいという場面はいくつもあります。ですが、誠実に生きようとする青年を見守ることは、大人の役割として十分理解できます。フランクもそうしたチャーリーを見て、自分ももう一度やり直してみるか、と思えたのだと思います。もし大変だったとしても、友人のチャーリーが助けてくれるという信頼があったからこそかもしれませんね。

 

それと、フランクが盲目であることの意味です。フランクのセリフに「俺は目が見えないが、こうもりより鋭いレーダーを備えている」というセリフがあります。私たちの目に映る諸現実は物事の本質から目をそらさせるものであり、かえって盲目である方が本質をとらえやすい、といいたげな感じですね。本質は目に見えない、ということなのでしょうか。

 

アカデミー賞にノミネートされるということは、映画がその時代を巧みに表していること、さらには物語として完結するだけでなく、普遍性を持ったテーマを語りかけていることだと思います。この時代のアメリカが、それまでの目に見える経済的繁栄の裏で、社会的に様々な問題が影を落とし始めていたのかもしれません。

原作と『セント・オブ・ウーマン』以前の映画化作品もあるようですので、そちらではどうなっているのかも気になります。が、ちゃんとあたれていません。もし何かご存知の方がいらっしゃったら、コメント欄で教えていただければ幸いです。

(もちろん、ブログの感想や映画の感想もお待ちしています!!)

 

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最後に見どころとしては、盲目のフランクが劇中登場する女性がつけている香水の香り(=Scent of a Woman)を見事に当て、その種類から姿の見えない女性像を見事に言い当てていくシーンがあります。タンゴのシーンとあわせて、ぜひご覧になってほしいですね。